※ サクロン=主人公。
珍しいポケモンがいないか村のなかをぶらぶらしていると、通りの向こうからオイチさんとサクロンさんがやってきた。
「おふたりとも、お買い物ですか?」
「はい。サクロンさまと共にぽにぎりやに」
この地方にはぽにぎりという、一時的にポケモンの能力をあげる食べ物がある。
大体イクサに出陣する前に食べるものなので、また近いうちにイクサをするのだろう。
「それからこれはお茶菓子です。ヒカリさんの分もありますから、お城に帰ってから一緒に食べましょう」
オイチさんが笑いながら、持っていた包みのひとつを持ち上げた。
「いいんですか?」
仮にも一国の主とわたしのような子供が同席していいのだろうか。
もちろんですよ、ね、サクロンさま。
オイチさんが隣のサクロンさんに同意を求めると、コクリとサクロンさんは頷いた。
お城に帰るとたくさんの侍女がサクロンさんとオイチさんの元に集まってきた。
ブショーリーダーが女性の場合、お城はこうしてにぎやかになるのだという。
「お連れの方はまた書物庫ですか?」
「はい。どうやら面白い本が見つかったみたいです」
「それはよかったです。ね、サクロンさま」
コクリと、またサクロンさんは頷いた。
三人で縁側に座っておまんじゅうを食べていると、庭にムックルがやってきて地面をつつきだした。
「またイクサをするんですか?」
「ええ。次はアオバを攻めようとお話をしていたところです」
「……純粋な疑問なんですけど、どうして国をとりあったりするんですか?」
サクロンさんは、地面をつつくムックルを、じっと見つめていた。
わたしの質問にはオイチさんが答えてくれた。
「守りたいものがあるから」
「守りたい、もの」
オイチさんの言う守りたいものがなんなのかわからなかったけど、口に出してみると、ぼんやりしていたそれが少し輪郭を持ったような気がした。
オイチさんは微笑をうかべて頷いた。
「わたしには守りたいものがあります。そのためにはイクサをしなければなりません」
――貴方にはないの。とサクロンさんがわたしに視線を向けた。
わたしの頭にはすぐにアカギさんが浮かんだ。
アカギさんが、普通のひとと同じように生活をしている姿。
嘘をついて逃げたり、顔を隠して外を出歩いたり、人目を気にして行動に制限をかけたりすることがなくて、堂々と彼らしく立ち振る舞える、そういった誰もが本来持っている『ふつう』。
「守りたいものはたくさんあります。本当に、選べないくらいたくさん」
わたしはアカギさんのふつうと、自分の生まれ育ったシンオウ地方を天秤にかけて、その両方をとる決断をしていまここにいるのだ。
「わたくしたちも本当ならイクサなんてしたくないんです。でも戦わなければ、前に進まなければ守りたいものを守れないんです」
「わたしも、その気持ちわかります」
本当に、わかるんです。
ウソだと思われたくなくて思わず念を押してしまったけれど、あまりの必死さにオイチさんは驚いていた。
でもサクロンさんはわかってると言わんばかりににっこりと笑ってくれた。
ムックルを見ていると、あの頃の気持ちが胸中ににじんだ。
END
例えこんな結末になってしまったとしても。
PR